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平和のための戦争論序説@

大平政徳(鹿児島南高校)

はじめに〜戦争意識の出発点〜

私たちは「ついに戦争が起こった。(勃発した)」とよく言います。
以前の教科書もそのような書き方が主流でした。
日本語で戦争を表現するとき、自動詞的に理解してしまうのは仕方のないことかも知れません。

しかし,そこには主語がないのです。
戦争を誰が何のために起こしたのかという論理がそこには組み込まれていません。
あたかも自然災害と同じように戦争が起こったように感じてしまうのです。
その意味では文章は他動詞で考えるほうが論理的だといえます。
英語が論理的だという意味はそこにあります。
他動詞を使うと主語が明確になるのです。
誰が戦争を起こしたのか明確です。

どうしてこんな自動詞的な認識をしてしまうのか。
その原因の一つは日本語という言語的特質のなかにありますが,以前の教科書の書き方がそうであったのは,もう少し別の意図が働いていたものと考えられます。

それは誤解を恐れず言えば,再び戦争をするためには,戦争が自然災害と同じように人間の力ではどうにもならないことを人々の脳に刷り込ませるためです。
戦争を誰が何のために起こすのかわからなくさせることが,戦争をするためには必要なのです。

また,こうも言えます。
それは,戦争の構図が複雑で単純には言えない,という点です。
社会のうごきというのは個人や集団の力の合成です。
簡単に特定の個人や集団の意志に還元できないという面もあります。

しかし,21世紀を平和な世紀にしたいと願っている私たちは,歴史の教訓に学びながら戦争にいたる主要な矛盾・対立がどこにあるのか,確かな目を持つことが求められています。

1 「戦争のつくりかた」〜イラク戦争を例に〜

結論的な話を最初にします。
2003年3月20日は米英がイラクを攻撃した日であるとともに,中教審が教育基本法の「改悪」を答申した日でもあります。
教育基本法の「改悪」はさておき,イラク戦争はさまざまな要素が入っており,一見複雑ですが「戦争のつくり方」をわかりやすく示しているように思えます。

まず,いくつか質問。

(問1)世界貿易センターを破壊・攻撃したのは誰,あるいはどこの国または何という組織?
(問2)イラク戦争の直接のきっかけ・原因は何?

さあ〜どうでしょうか。

イラクを攻撃するためには(すなわち戦争をするためには),「民主国家」を標榜する限り,国民の支持を得なければ国家の軍隊を動かせません。
どうしたら国民の支持が得られるのでしょうか。
まず「自由と民主主義」を守るためには,イラクみたいなテロ国家はつぶしてしまえというムードを国民の中に醸成することが必要です。
そのためには,イラクはフセインの支配する独裁国家(「ならず者国家」)であることを系統的に宣伝し,「自由と民主主義」の敵であることを国民の頭の中に刷り込む必要があります。
さらに,アラブのテロの危険性も常に指摘して「非常時」を経験させることも必要です。

しかし,それだけでは戦争は始められません。
国民が「熱狂する何か」が欲しいのです。
何か「事件」がないか。
「事件」がなければ自らつくり出しさえするのです。
(戦争を始めるとき,いかにフレイム・アップが多いか。満州事変,トンキン湾事件など想起。)
アラブのテロ組織がアメリカをねらっている。
世界貿易センターが以前攻撃されたことがある。
こうして9・11事件が利用されるもしくは仕組まれるのです。
(9・11事件の真相がどこにあるのか,私にはまだ確信がもてません。しかし,「ボーイングはどこに消えたか?」などのVTRをみてみると,軍産複合体を背景に持つブッシュ大統領の陰謀説もあながちうそではないと言えそうです。ケネディ暗殺の真相も明らかになってないアメリカ合州国という国家の暗部を見る思いがします。)

アメリカは「愛国」の熱狂につつまれます。
オサマ・ビン・ラディンとその組織アルカイダが犯人だ。
オサマ・ビン・ラディンをかくまっているのはアフガニスタンのタリバンだ。
アフガニスタンを攻撃しよう。
さあ,あの貿易センターで犠牲になった人々の復讐だ。
こうして,国民の圧倒的支持の中でアメリカ国家の軍隊が「報復戦争」(=正義の戦争)に出発するのです。
ちょうど,日の丸の歓声に見送られ出征した戦時の日本のように。

でも本当のねらいはイラク。(うまくいけば次はイラン)
10年前に親父ができなかったことです。
国民がイラク攻撃を支持する問題とは?
「核兵器」「化学兵器」?
そう言えば,以前フセインはクルド族を化学兵器で殺しているではないか。
「よし,これだ!」
 <イラクは大量破壊兵器を保有している。CIAは確かな証拠をつかんでいる。そのうち公開する予定だ。>等々

こうしてイラクへの攻撃が始まるのです。
それがウソだったことはご承知の通り。
既成事実が積み重ねられていき,人々は開戦の原因を忘れてしまいます。
とりあえず,この段階でまとめてみましょう。

@誰が起こすのか→象徴的には軍産複合体,一般的には独占資本とその代弁者
A何のために→自らの経済的利益の確保(軍産複合体は直接武器を売ってもうかる「死の商人」,その他の独占資本は安定的な利益を得るため)
B戦争を始めたり拡大したりする条件@→国民が熱狂する「事件」
C戦争を始めたり拡大したりする条件A→国民の支持
D戦争を始めたり拡大したりする条件B→国民がすぐ忘れる

※ 演習課題
『戦争のつくりかた』(りぼん・ぷろじぇくと;マガジンハウス)を読んで「ここに書かれていることと同じだと思うことを,最近の日本のできごとから挙げてみましょう。いくつ見つけられるでしょうか。」

(『かごしま歴教協通信』 No.35 2007年1月)

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